更新日:2018/09/18

公開日:2018/09/10

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キャラクターストーリー

リアン編

第1話『悲しい別れ』

  • とある研究施設の、とある部屋。
    そこに13歳の少女が一人、ベッドに腰掛けたまま宙を見つめていた。
    少女はこの部屋に連れてこられてから笑うことを忘れてしまっていた。ただひたすらノートに思いを綴る日々。
    そのノートは彼女のことを思いやる人物との唯一の交流手段だった。
    その人物が彼女のもとからいなくなってしまうまでは……。

  • とある国のとある山岳地帯。その狭間にある大草原がリアンの生まれた場所だった。
    リアンの一族は遊牧民で、季節と共に滞在先を転々とし、リアンも一族と共に各地を点々としては自然の中で伸び伸びと暮らしていた。
    その中で幼いころからリアンには特殊能力が備わっていた。食糧を調達する際、どこに向かえばいいか、リアンには不思議な勘が働いた。

  • 「みんな、あそこに行って!」

    と、リアンの指し示す先には必ず動植物が存在していた。

    「今日もリアンのおかげでたくさん収穫できたよ」

    「ありがとうリアン。助かったわ」

    一族はリアンが神から力を授かって生まれてきたのだと考え、大切にしていた。

  • しかし、ある日。一族が滞在している地点を紫色のノイズが襲った。魔影蝕だ。
    一瞬何が起きたのかわからないリアンだったが、視界に大量のノイズを捉えた後、意識を失い、気が付いたときには一人でクレーターの真ん中に立っていた。

  • 「あれ? ここどこ? みんなは? ねえ、みんな。どこに行ったの? 返事をしてよ。ねえったら!」

    何が起きたのかわからないまま一人ぼっちになってしまったリアンは泣き叫び続けた。
    悲しさや寂しさ。それ以上に恐怖がリアンを襲っていた。
    リアンは、家族も友人も、一族の全てを一瞬で失ったのだった。

  • 「シェイル研究員、こちらに! 生き残っている女の子を見つけました!」

    (誰……?)

    リアンがただひたすら泣き叫び、疲れ果てた頃、リアンの前に見知らぬ人間たちが現れた。
    シェイルと呼ばれた研究員がリアンを見るなり周囲に指示を出す。

  • 「救助! 急いで!」

    (何……?)

    大人たちがリアンを囲んだ。リアンは疲れ果てていて抵抗する力もない。
    されるがままにしていると、リアンは久しぶりに暖かい毛布に包まれた。
    そして、見知らぬ大人たちに運ばれて、4つの輪っかがついた初めて見る乗り物に乗せられると、そこで眠りについてしまった。

  • 後ほどわかったことだったが、大人たちはマグダネル財団の研究者で、魔影蝕の発生した地に赴いては調査をしており、そうして各地を転々としていたところ、リアンを発見するに至ったのだった。

  • それからというもの、リアンの生活は一変した。
    見たことのない建物に住まわされ、見たことのない服を着せられ、見たことのない食べ物を与えられた。
    そして、白衣を身に纏ったたくさんの人たちと顔を合わせることとなった。
    その人たちは、この建物を最新鋭の研究施設だと言い、新しいリアンの家だと言った。

    (これから私はどうなってしまうのだろう……)

  • 研究員に何を聞かされてもリアンには何の事だか理解ができなかった。
    ただ、自分たちを襲ったのは魔影蝕という現象で、たった一人生き残ったリアンは、研究対象として保護されたのだということだけ、日々を過ごしていく中でわかっていった。

  • (もう何だっていい……。だって父さまも母さまもばばさまもじじさまも)

    (誰もいないんだもの……)

    リアンはもう前のような生活には戻れないのだと悟っていた。

  • そして同時にリアンは、この環境は『死』とほぼ同じものなのだと認識した。
    そうして研究員と過ごす日々が過ぎたある日。
    朝、目を覚ますと、一冊のノートが机の上に置かれていることに気が付いた。

    (……あんなノート、いつの間に置いたんだろう……)

  • もしかすると研究員が置いていったものかもしれない。
    そう思って放っておくことにしたリアンだったが、主任研究員のシェイルにノートを置き忘れていると伝えると、

    「え? あなたが欲しがったから渡したんじゃない」

  • 「ここ数日、一生懸命何かを書きこんでいたと思ってたけど」

    (そんな覚えない……)

    リアンは気味が悪かったが、ノートを開いてみることにした。

  • そこには見知らぬ文字がたくさん書きこまれており、全く理解ができなかった。
    しかし、同時に頭の奥で何かが弾け、その文字が初めて見る文字ではないこと、はっきりと覚えているわけではないが確かに自分からノートを求めたこと、そして、ここ数日、誰かとコンタクトをとるために、このノートに文字を書き込んでいたことが走馬灯のように脳裏に流れていった。

    「なんなの……これ……。私は何をしようとしていたの……?」

    -第1話 END-

第2話『私は……私?』

  • 頭が痛い。サイレンの音がまだ耳に残ってる。みんなは無事に逃げただろうか?

    「《んー……》」

    ……ん!? どこ、ここ。私、なんでベッドの上にいるの!?

  • 「《あっ。もしかして病院?》」

    ……いえ、違うわね。命の危険に関わるとき以外、あんなところ行くことないし……。

    「《……ってことは、命の危険!?》」

    まさか……! 私だけ逃げ遅れてしまったっていうの?

  • 「《……!?》」

    髪が……長い。腰まである。肩より下まで伸ばしたことないのに……。
    そんなに長い間、眠っていたのかしら?

  • 「《鏡……鏡はないかしら…………あった!》」

    このお部屋すごいわね。洗面台が設置されてるわ。
    ……いや、そこに驚いてる場合じゃない。何なのかしら、この髪の長さ。とてもかわいいけれど。

    「《私……よね?》」

    鏡に映ってるのは確かに私……。だけど、何かおかしいわ……。

  • 「《……瞳の色。瞳の色が違うわ!》」

    部屋が暗くてよくわからないけど、全然違う。これはどう見ても蒼色。
    私の瞳は紅色だったのに。長耳猫と同じで、お気に入りの紅色だったのに。
    なのに、どうして蒼色なの?

  • そうだ、魔力を使って誰かと連絡を取りましょう!

    「《…………》」

    ん?

    「《……………………》」

    え?

    「《………………………………》」

    ……使えない!

  • 使えないどころか、マナの気配もない。
    どうして? なぜ? なぜマナを感じないの!? ……うーん。
    ……考えてもわからない。わからないことだらけでわからないわ。
    とにかくこういうときはまずは行動よね。
    それが私の長所。私の生き方!

  • ……というわけでいろいろと調べてみたけど、まず、この部屋からは出られないみたい。魔力も使えない。
    マナが全く感じられないせいね。
    外に行ってみないと、マナを感じないのはこの部屋の中だけなのか、外もなのかはわからないけれど。
    マナが無いってとっても不便なことなのね……。

  • ん? 足音だわ。誰か来たみたい。

    「リアン。食事を持ってきたわ。……あら? 今日はなんだか顔色がいいわね」

    「《…………?》」

    「リアン?」

  • えっとえっと、どうしよう!何て話しかけられたのかわからない……。

    「調子はどう?」

    どうしようどうしよう。めちゃくちゃ顔を覗き込まれてるわ!

    「《……~~~ッ》」

    笑ってみたんだけど、どうかしら。だっておばあ様が言ってたのよ。
    困ったときは笑顔を見せなさいって。そうしたらみんな良くしてくれるって。

  • 「あら。やっぱり今日は元気なのね。それなら良かったわ」

    「食事、ここに置いておくから、食べ終わったら呼んでね。下げに来るから」

    「《~~~ッ》」

    「じゃ、またね」

    ふう。なんとか乗り切ったわ。やっぱり笑顔って誰にでも通じるものなのね。

  • で、またわかったことがあるわね。さっきの人からもマナを感じなかった。
    ちなみに渡されたものからも感じない。
    ……というよりこれは何? 食べ物のようだけれど……?

  • 「《現時点での結論としては、ここはマナのない、私が全く知らない異郷の地であるということね》」

    でも、どこなのかは見当もつかないわ。マナのない場所なんて初めてだし。
    だいたいそんなことあるのかしら?

  • それに、この部屋にあるものも見たことがないものばかりだし……。

    「《……もしかして、夢の中なのかしら?》」

    そうよ、おばあ様が言っていたわ。
    こういうとき、まずはほっぺたをつねりなさいって。

  • 「《……痛い》」

    つまり現実。これがわかっただけでもありがたい……。とにかく整理をしましょう。
    まず、私は魔影蝕から避難してるときに何かにぶつかった。それは覚えているわ。
    それから記憶がなくなって、気が付いたらここにいた。
    そして今に至る。

  • 「《言葉もわからない……。マナもない。魔力が使えずに、頼れるものは……?》」

  • もう一度部屋を見渡してみる。…と、ふとドキっと心臓の音が聴こえた。
    また私は見つけてしまった。自分の身体の異変を……。
    見つけたというより、見つけられないと言った方がいいのかもしれないのだけど……。
    私の右腕には、一生消えない、魔法で負った傷があったはず。それがきれいさっぱりなくなっている。

  • おばあ様の力を以てしても治すことができなかった傷なのに……。

    「《まさか……》」

    また心臓の音が聴こえた。今度は早鐘だ。もう一度鏡の前に立ってみる。

  • 見慣れた顔がそこにある。でも瞳の色が違う、髪の長さが違う、腕の傷もない。
    自分の顔なのに、自分の顔だと思えない。

    「《誰なの……あなたは……》」

    同じ顔の、違う誰か。どうしてこうなったのかはわからない。
    けれど、それを知るすべが1つだけある。私は『彼女』と話さなければ……。

    -第2話 END-

第3話『一縷の望み』

  • はあ……。
    これ見よがしに紙の束を机の上に置いているのに、何日待っても、何回書きこんでも、何も返事がこない……。
    もしかして、この身体の持ち主さんは亡くなってしまったのかしら……。
    だとしたらいつ? いつまで生きていた? 
    願わくば、私がこの身体の中に入ったせいじゃありませんように……。

  • ……なんて、縁起でもないこと考えてる場合じゃなかった。とにかくコンタクトを続けましょう。
    きっと何か理由があって返事を書いてくれないのよ。
    …………そうよ、言葉よ! 時々ここに来る人の言葉も私にはわからないんだもの。
    だったら、この身体の彼女にも私の言葉が通じるはずないわ!

  • なにか別の方法でコンタクトをとらなきゃ……。
    言葉が通じなくても意思疎通できる方法で……。

    「《……絵よ! 絵ならきっと通じるわ!》」

  • あれからノートを放置していたリアンは、ふと気になってノートを開いた。
    するとそこにはたくさんのイラストが描きこまれていた。

    (これは……?)

    つい先日までよくわからない文字が書き込まれていた。
    しかし突然、それが絵に変わっていた。イラストは様々なものが描かれていた。

  • 取り分け気になったのは、リアンの似顔絵のそばに描かれた女の子の絵だ。
    おかっぱの髪型で、大きな帽子をかぶり、不思議な服装をしている。
    ほかにも、その女の子とともにギザギザの壁――。おそらく魔影蝕と思われる絵も描かれてあった。
    これらのイラストの解読にリアンは一日中時間を費やした。
    その中で、そのイラストが訴えていることが一つだけわかった。

  • (私の中に、誰か知らない人がいる……?)

    女の子の絵から矢印が伸び、その矢印がリアンを指していた。
    女の子がリアンの中に入っていると察せられるイラストだった。

  • そんなまさか……と思うリアンだったが、その日の夜、シェイルにこんなことを言われた。

    「リアン。あなた、最近、私たちの質問に笑ってごまかすことが増えたけど、何か悩みごとでもあるの?」

    「私たちはあなたの力になりたいの。隠さず何でも話してね?」

    (……笑ってごまかすなんて、したことがない)

  • (つまり、私の知らない間に私の身体が何かをしているということ…)

    女の子のイラストを見つめるリアン。

    (……もしかして、私に助けを求めている?)

    リアンはペンを手に取り、そして、絵を描き始めた。

  • 来たわ! 返事が! そして生きていたわ、この身体の持ち主さん……! とにかく良かった! 
    もっとお互いのこと、そして、今のこの状況のことを教えてもらわないと。
    ここがどこなのかも知りたいし、できたら彼女の名前も知りたいわ。
    どうすれば知ることができるのかしら?
    とにかくもっともっと交流しないと…!

  • 近頃リアンは朝起きるのが楽しみになっていた。
    それはリアンが眠っている間にノートにイラストが書き込まれるため、翌朝目を覚まして一番にノートを見るのが楽しみになっていたからだった。
    相手の名前はわからない。絵でしか交流ができないため、名前を知るすべがなかった。

  • どうやらウサギが好きなようで、自画像と思われるイラストのそばにウサギらしきイラストが描かれてあったのが強く印象に残っている。
    ほかにも、見たことのないものを相手はたくさんイラストにして描いていた。

    (どこの生まれの人なんだろう……)

    言葉が通じなかったため、遠い国に生まれたのかもしれない、と、リアンは思った。

  • さらに交流を通してわかったのは、リアンとノートの相手は、リアンが眠れば相手が目覚め、相手が眠るとリアンが目覚めるという具合に、リアンの身体の中で精神の交代をしているということだった。
    ノートの相手は、元々いた場所で何かに巻き込まれ、どういうわけかリアンの身体の中で目が覚めたのだということだった。

  • リアンにはそれが魔影蝕なのではないかと察せられた。
    相手が描いていたイラストがリアンの見た魔影蝕とイメージが一致したからだ。

    (ということは、魔影蝕の被害にあった人たちはどこかの誰かと体を共有することになるのだろうか?)

    (もしかしたら、私の家族もどこかに……?)

  • もしそうだとしたら、また一族のみんなに会うことが可能になる。
    リアンは早々にこのことについてノートの相手と語りたいと思った。
    そんなある日。ノートの交流が始まってからしばらく過ぎたころ、リアンは部屋の中で倒れてしまった。
    原因は、ノートの相手と身体を交換しているせいで、リアンの身体が一睡もしていないせいだった。

    -第3話 END-

第4話『希望を胸に』

  • リアンが倒れてからノートでの交流がなくなっていた。
    リアンは、相手のことが毎日心配で、何度もノートに描きこんだ。
    しかし、返事は一向に得られなかった。

    (もしかしたら消えてしまったのかもしれない……)

    (私が倒れてしまったから……)

    ノートに描きこまれたイラストを見るたびに、リアンは寂しさと喪失感がこみあげた。

  • そしてしばらく経った頃、リアンは真行寺家の養子になることが決まった。
    真行寺家の当主が、ぜひリアンを真行寺家で預かって育てたいと申し出たのだ。

  • 「リアン。真行寺さんのお宅に行っても、元気でいてね」

    旅立つ前の晩、リアンの担当研究員であるシェイルが別れを告げに来た。

    「こちらこそ。お世話になりました……」

  • これまでシェイルとは事務的な会話が多かったが、クレーターの中で見つけてくれた時から、シェイルがリアンを心配して見守ってくれていたことを、リアンもちゃんと感じていた。
    もっといろんな話をすればよかった、と、リアンは今更思った。

  • そして旅立つ前の晩。リアンは寝付くことができず、部屋でぼーっと宙を見つめていた。
    そこに、声が聞こえてくる。

    「ねえ、聞こえる?」

    「えっ……」

    「聞こえたら返事して」

  • 「……き、聞こえるわ。でも、これは何?」

    不思議なことに、声は自分の口から発せられていた。
    驚いてリアンは鏡の前へと立つ。

  • 「私よ! ほら、ノートで絵の交換日記をやっていた……」

    「わかる? 今、あなたと話しているの!」

    そんなまさかと驚いたが、リアンの口がリアンの意識とは別の力で動いていた。

  • 「ええ、わかるわ。あなたなのね? でも、どうやってるの……?」

    「今まで同時に身体を共有したことなんて、なかったはず」

    「うん。それなんだけど……。ひとつだけ方法があったの」

    「でも、その方法を行使するには……、ある覚悟が必要で……」

    「えっ……?」

  • 「あのね、私、消えることにしたの」

    「なにを……言っているの……?」

    「だから最後に何とかあなたと話せないかって思っていろいろ考えて、この方法を思い出したの」

    「方法……?」

    リアンは半分混乱しながら話を聞いた。

  • 「ええ、おばあ様に小さい頃教わった方法よ」

    「マナを感じられない時でも、一回だけなら力を解放することができるっていう」

    「条件はただ一つ。それは……自分自身をマナに変換して魔力を解放すること」

    「そして、その魔力を使って、今、あなたの身体の表に出ているわ」

  • しかしその方法で魔力を使うには消える覚悟、すなわち、死を覚悟することが必要だった。
    古くから伝わる、一族を守るために使うマナの解放術だった。

  • 「最後にお話しができてよかった。これでもう思い残すことはないわ」

    「……ダメよ、そんなの! あなたはまだ生きてるのよ、私の身体の中で」

    「わかってる。でもね、私があなたの中にい続けたら、この身体は持たないわ」

    「だから、そうなる前に私がいなくなろうって決めたの」

    「そんな……。せっかく会えたのに……」

  • リアンは愕然として鏡の中を見ることができなくなってしまった。
    それでも自分の口から自分の意思に反して言葉が紡がれ続ける。

    「あなたが眠っている間、じっと一人で考えたわ」

    「これからのこと、どうすれば私の国に帰れるのかってこと……」

  • 「でもね、きっと、帰れないんだと思うの。わかるの。だって魔影蝕に飲み込まれたのよ?」

    「で、でも……、きっと何か方法があるはずよ」

    「……ないわ。魔影蝕に飲み込まれて、こんなことになった人なんて、どこにもいないから……」

  • 「……そう、なの……?」

    リアンが微かに持っていた希望が打ち砕かれた。
    しかし、今はそのことよりも目の前の彼女とのことがショックでならない。

  • 「私、きっと、魔影蝕に巻き込まれたときに、強く念じちゃったのね」

    「『消えたくない』って。だからあなたの中に入っちゃったのよ…」

    「でも、他人の身体を使ってまですることじゃない」

    「やめて。だめよ。そんな話、聞きたくない」

  • 「ありがとう。そう思ってくれるだけでとっても嬉しい」

    「……っ」

    リアンの瞳から涙があふれた。

  • 「泣かないで。お願い。笑って見送ってほしいの」

    「……無理よ」

    「お願い。お願いだから」

    鏡の向こうでリアンがリアンに訴えてくる。

  • 「笑ってくれないと、寂しいお別れになっちゃう」

    「どうにもならないの?」

    「うん。だから、最期くらい、笑ってお別れしたい」

    リアンはまた言葉を失った。
    しかし、必死に涙をこらえて顔をあげる。

  • 「……私、あきらめないから」

    「えっ?」

    「いつかあなたの故郷へ行って、この瞳に景色を映す」

    「……!」

  • 鏡の向こうでリアンが柔らかく微笑む。

    「嬉しい。またあの景色が見られるのね……」

    本当に叶うのか、そんなことが。今の二人には皆目見当もつかない。
    しかしリアンは心に強く希望を持った。

  • 「そうだ、名前。私たち、まだ名前を知らないわ。ずっと知りたかったの。教えて!」

    鏡の向こうのリアンが前のめりになりながら言ってきた。
    鏡の手前でリアンが静かに答える。

  • 「リアンよ」

    「リアン……!? 私たち、そんなとこも似てたのね!」

    「えっ?」

    「私の名前はね、レア」

    「レア……」

  • 「うん。レア。……ありがとう、リアン。楽しかったよ」

    そう言ってにっこりとほほ笑んだリアンの姿に、一瞬だけおかっぱ頭で紅色の瞳を携えたリアンと似た女の子が重なった。その紅色の瞳は、まるでウサギの目のように赤く輝いていた。

  • 気が付くとリアンはベッドの中にいた。朝になっている。旅立ちの日だ。

    「私、確か、レアと……」

    そう言って昨晩のことを思い返す。
    しかし、もうレアの意識は感じられない。
    彼女が言っていた通り、レアはもう消えてしまっていた。

    「そんな……。レア……」

  • リアンは着替えを済ませ、ほんのわずかな荷物が入った鞄を手に持った。

    「ノート、忘れずに……」

    それだけあればあとは何もいらない。
    部屋を出る寸前、少しだけリアンは研究室に振り返った。物寂しい冷たい空気だけが部屋の中に残っている。
    初めてこの部屋を訪れた日、レアとの出会いがあるなんて全く思っていなかった。
    リアンが研究室を出ると、施設の出入り口までシェイルが見送ってくれた。

  • その時、シェイルが不思議そうにリアンの顔を覗き込んできた。

    「あの……何か?」

    「リアン、あなたの瞳、確か両目ともきれいな蒼色だったと思うのだけど」

    「えっ? そうですけど……?」

    リアンは何を言われたのかよくわからなかった。
    シェイルがさっと手鏡を差し出す。

    「見てみて」

  • 「……え? ……あっ」

    鏡の中の自分を見て、リアンは思わず声を漏らした。
    瞳がオッドアイになっていたからだ。

    「これ……この、紅色の瞳……」

    つーっとリアンの頬を涙がつたう。
    自分の蒼い瞳とレアの紅の瞳。どうしてこうなったのかはわからない。

  • 「リアン、大丈夫?」

    「はい、大丈夫です……。ただ、ちょっと、思い出して……。これまでの日々を……」

    「顔をあげて、リアン」

    「きっとこれからはもっと素敵な毎日になるわ。瞳がとてもきれいに輝いているから」

  • 「はい……。そうですね。そうだと思います」

    「こんなに近くに、彼女を感じられるから……」

    リアンはもう一度鏡を見た。そこには確かに紅色の瞳があった。

    レアの存在を感じる紅色の瞳。リアンは、もう孤独ではないと、そう思った。

  • 空に向かってリアンがつぶやく。

    「レア。必ず行くわ。あなたの故郷へ……」

    希望を胸に。リアンが一歩、踏み出した。

    -第4話 END-


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