更新日:2018/08/06

公開日:2018/07/30

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キャラクターストーリー

シンク編

第1話『完全無欠の優等生!』

  • 時は約一年前。これはカズシが海守学院に来る前のことである。
    海守学院始まって以来の、一人の真面目で優秀な生徒が注目の的となっていた。

  • 生徒の名前は、シンク――。
    今日も周囲が騒々しい。いったい僕が何をしたっていうのだろう。ただ、試験で全科目オール満点を取っただけじゃないか。なのに、それの何が珍しいのか、やいのやいのと騒ぐだなんて……。

  • 僕の名前はシンク。勉学こそ正義と信じる、完璧に近い男だ。
    どれくらい完璧に近いかと言うと、生きてきた中で試験と名のつくものでもらった成績は満点しかない。
    ……いや、99点も三回ほどあったような気もするが。

  • 中学時代も今も生徒会会長には入学と同時に就任。叱責というものには今まで一度も遭遇したことがない。いったい何をしたら誰に怒られるというのだろう。
    その点においてだけ、僕は非常に劣等生だ。

  • 「ほら、シンク様よ……」

    「あっ。シンク様……」

    なんだかよくわからないが、女生徒たちがこっちを見ている。
    まったく、柱の陰に隠れながら僕の何を見ているのだろう?

  • 「ああ…今日もかっこいい…!」

    「あの流し目がクールよね」

    「ああ見えて、笑ったときは、かわいらしいのもまたニクイ…!」

    「同じ時代に生まれてよかった…!」

    「同じ空気が吸えて幸せ…!」

  • 僕が廊下を進むたびにひそひそと囁き声が聞こえてくる……。
    いったい何を話しているのか。言いたいことがあるのなら、面と向かって言ってほしいものだが……。

  • まあいい。他に気を取られている場合ではない。勉学の時間さえ邪魔しなければ、誰が何を言おうと構わない。今日も早々に帰宅して勉学に励むのみだ。勉学はいい。努力すればするほど、僕を高みへと導いてくれる。
    僕は結果がついてくるものに努力を惜しむ男ではない。

  • 「っとぉ! 待て待て待て。何帰ろうとしてんだよ、シンク!」

    「そうなの。今日も練習って言ったでしょ!」

  • 「ん? 気のせいかな……? 今、何か雑音が聞こえたような……?」

    「おい! 聞こえてるくせに帰ろうとするな。ムサシ先生の大事なお言葉だぞ」

  • 「優等生が先生を無視していいの?」

    「……」

  • 「あーあ。先生を無視するなんて、劣等生の始まりだなー」

    「残念なのー。シンクには超超超・超新星爆発並に期待してたのにー」

  • 「……ッ」

    「ムサシ先生。プロフェッサー・ルーニ。僕に何か用でしょうか?」

    「やっと振り向いたか。やっぱり聞こえてたんじゃねえかよ。こんの、ツンデレ・シンクめぇ!」

    いたっ、いたたっ、先生のくせに肘でつついて来るんじゃない……ッ。

  • 「まったくもー。ここまで言わなきゃ先生の存在を視界に入れないなんて~」

    「シンクってばダメダメなの」

    「コホン」

    「残念ながら僕はあなた方を理力学の権威だと信じることができなくなっているもので――」

  • 「よーし。じゃあ行くぞシンク!」

    「ついてくるの、シンク!」

  • 「あああっ」

    ずるずるずるずる……引きずられる僕。おかしい。なぜだかまたこの人たちにいいようにされている……。
    数日前から僕の生活はこの二人に脅かされてばかりだ。それも全く理解できない理由で……。

  • などと考えているうちに、ガラガラガラと音を立てて扉が開き、いつもの部屋へと放り込まれた。

    「さ。着いたぞシンク!」

    「さあこれを持つのよ、シンク!」

  • 「ですから、なぜ僕がベースの練習なんてしなければならないのでしょうか」

    「おいおい、また最初から説明し直しか?」

  • 「もう何回も言ったのに……。意外と飲み込みが悪いの~」

    「お二人の期待に応えられなくて、大変、大っっ変残念ですが、僕としてはまだ……」

    「納 得 が い っ て い な い も の で」

    伝わりづらいかもしれないが、ちょっとだけ語気を強めてみた。

  • 「んなこたあいいんだよ。とにかく練習だ!」

    「そうなの! とにかくやるのー!」

  • ……くそッ。伝わらなかったようだ。
    このパターンもいい加減飽きて来たな…。この押し切られる展開……ッ。
    思えばなぜこの僕が、この二人に楽器を持たせられ練習をさせられるハメになったのか。
    僕のここ最近の消したい過去――とどのつまり『黒歴史』を振り返ってみよう……不本意だが。

    -第1話 END-

第2話『理力研究の最先端!』

  • まずは三日前のことからだ。
    二人が研究に使っている謎の部屋で、僕は不思議なことをさせられていた――。

  • ベンベンベンベンベンベンベンベン……。
    ベンベンベンベンベンベンベンベン……。

  • ベンベンベンベンベンベンベンベン……。
    ベンベンベンベンベンベンベンベン……。
    ベンベンベンベンベンベンベンベン……。

  • ああ、指先の感覚が消えて行く……。指先どころか、生きている実感もあまりない。
    ここ一週間ほど、怪しげな研究室に連れてこられて、重たいギター? いや、ギターじゃなかったか……? とにかく、そのようなものを持たされて、弾けだの鳴らせだの、パッションを爆発させろだの、わけのわからないことを言われ続けて、僕の心は絶賛シャットダウン中だ。

  • 「ベン ベン ベン ベン」

    「ちょっとシンクー。それ、弾いてない。口ずさんでどうするのー」

  • 「ベン ベン ベン ベン。ベン ベン ベン ベン」

    「なるほど……。とうとう心も体もベースと一体になっちまったか……?」

  • 「ベンベンベンベンベンベンベ……」

    「ああッ、もうやってられない……! 毎日毎日ベンベンベンベンッ……! 三味線か……!!」

  • 「ベースっていうのはそういうものなの」

    「その通り! リズムを刻むのがベースの仕事なんだ。だからやれ。規則正しくベンベンベンと」

  • 「もういやだ。やめさせてくれ……」

    「というか、どうせならもっとやりがいのある楽器が良かった……」

    「おい。世界中のベースとベーシストに謝れ」

  • 「そうよ!」

    「『バンドの中で何やってるかいまいちよくわかんない楽器ナンバーワン』は言い過ぎ!」

    「そこまでは言ってませんよ……! というか、あなた方の僕への行いはひどくないと言うのですか?」

    「ひどくないよ?」

  • 「研究のためには、多少の犠牲は厭わないからな」

    「ぎ……!?」

    聞き間違いじゃなければ、今、僕を見て『犠牲』って言った……?

    「ていうかお前、なんで上達しないんだよ。こんなに毎日練習してるのに」

  • 「優秀な子を誘ったはずなのに、予定外すぎなの……」

    「失礼ですが、僕は楽器なんてやったことがないのです」

    「だいたい、理力以外のものを僕は信じていません」

  • 「人の心とか、占いとか、感情とか、友情とか。音楽だってそうです」

    「パッションとかグルーブとか、得体が知れないし、何が上手で何が下手なのか、はっきりとわからないものは僕の管轄外です」

  • 「…………」

    「…………」

  • 「……あの。なぜ黙ってるんでしょう」

  • 「ぷっ……」

    「ぷぷぷぷぷー!」

  • 「なぜ笑うのでしょう!?」

  • 「シンク……。音楽は、理力だぞ?」

    「えっ!?」

  • 「音っていうのは、そもそも物理学で言うところの『波』の分野で語られるもので、空気を振動させてできる『波』が耳の鼓膜に振れて音として認識されて~」

    「楽譜も理力学を理解していれば、それなりに読めるはずだし」

    「そんなことも知らないなんて、理力バカとしてだめなんじゃねえか?」

  • 「そ…………そんなことは百も承知です!そうではなくて、僕が怒りたいのはそこじゃなくて……!」

    「……あああああああ……」

    がっくり膝をつき、生きてきた中で一番重たい溜息をついてしまった。

  • こんな重たい溜息、幼なじみのキッチでも聞いたことがないだろう。僕がこれまでについた一番重たい溜息は、あいつが開いた蛇口から、突然大量の水を僕の顔に噴射したときだ。いたずら好きのキッチには、何度もため息をつかされたものだ……。しかし、この二人、理力学の権威のはずなのに、やってることっていったら、毎日バンドの練習ばかりなのはなぜなんだ……? 僕が怒りたいのはそこなんだが……。

  • 「どうして僕は……、あなたたちと出会ってしまったんだろう……」

    「ん? なんか言ったか?」

  • 「シンク、後悔は先に立たずなの」

    「そんなことはわかっています。でも、僕は……」

    戻りたい、あの時に。この二人と出会う前の僕に戻りたい……! この願いは虚しく、今でも僕はあの二人に付き合わされている……。

    -第2話 END-

第3話『理力学のためなら!』

  • そして、ここからは一週間前のことだ。
    それは、僕がまだあの二人と出会う前のこと。僕が高等部の二年生になったとき、一回目の試験で全教科オール満点のダントツトップになった。
    二年の始まりも幸先いいスタートが切れて、僕は大変満足していた。

  • あまり感情が高ぶる方ではないが、努力した結果がわかった瞬間だけ、いつも僕は高揚する。
    しかし、いつまでも浮かれているわけにはいかない。次の試験に向けて、カウントダウンも同時に始まるのだ。
    だから、その高揚感を冷ますために、僕は見晴らしのいいバルコニーに向かった。

  • しかし、その時だ。いきなり何かにぐるぐる巻きにされて、殺風景な研究室へと運ばれた。

    「だ、誰だ……!?」

    僕がぐるぐる巻きから解放されると、目の前には大男と小さな女の子がいた。

  • 「よっ。俺はムサシ」

    「あたしはルーニ!」

  • 「ムサシに、ルーニ……!? それって……」

    僕を運んだ二人組は、理力学の権威として著名な二人だった。僕も二人のことはよく知っていた。特にプロフェッサー・ルーニは、憧れの研究者だ。二人のいる海守学院に通っていることも密かに誇らしく思っている。

  • しかしなぜそんな二人が僕のことを連れ去ったのか? 僕はすぐに質問した。

    「実は、あなたに協力してほしいの!」

    「協力?」

    「新しい理論を完成させるために!」

    「えっ」

  • 「その研究、お前さんにも協力してもらえねえかなって思ってるんだ」

    「えっ……!?」

    このときの僕には、まだ、二人の言葉が大変魅力的に聞こえていた。この僕にも権威である、二人の力になれることがあるなんて。そんなの協力する以外、何をするって言うんだろう、と。
    しかし、まさかあんなことをさせられるとは思っていなかった……。

  • 後悔先に立たず。先人は素晴らしい言葉をこの世に残してくれたものだ。まさに真理。
    ……脱線してしまった。話を元に戻そう。

  • 「詳しく聞きましょう」

    そう言って、まだ後悔にぶち当たっていないこの頃の僕はメガネをかけ直した。すると二人は怒涛の説明を始める。

  • 「あのね、一定条件下で理力圧を臨界点以上まで高めると、理力と魔力の区別がない空間を限定的に生成できたの!」

    「それで、超理力流体を用いて、理力と魔力を相互に変換できるか調べたんだ」

    「そしたらさ、極小規模なものだったんだけど、共時空間内で相互の変換が確認されて、実現可能な技術だってことが実証されたんだよ!」

  • 「は? え? え?? え??????」

  • 「だからーーー」

    「それでねーーー」

  • 「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってください。つまり、何の話ですか……?」

  • 「えっ。もしかしてわからないの?」

    「飲み込み悪ぃなあ。見込み違いだったか?」

  • 「いや、いきなり共時空間だとか超理力流体だとか言われて、ついていける生徒なんて早々いませんよ!」

  • 「最先端すぎてついてこれねえのかな~?」

    「ルーニたち未来を見てるからねえ~……」

    「この坊ちゃんにも早すぎたかあ……」

    「優秀だって聞いてたんだけどなぁ~……」

    「はーあ……期待外れだな~」

  • 「少々お待ちを。この僕ならほんの僅かなお時間をいただければ理解してみせます」

    「どうするルーニ。こいつ、やめとく?」

    そう言ってムサシ先生は僕にスタンガンのような怪しげな機械を向けてきた。

  • 「えっ。何する気ですか」

    「記憶をちょちょいとな」

    「や、やめてくださいよ! ちょっとお時間いただいたら理解してみせますと言ったのに……」

    「ほんとに理解できんのかあ?」

    そう言って怪しげな機械を僕に近づけてくるムサシ先生。

  • 「もちろんです! 必ず。だって僕に理解できない理力学なんてありませんから」

    「おっ、言いきったな。自信あるんだな?」

    「男に二言はありません」

  • 「よーし。じゃあシンク。今日からお前は俺たちの立派な仲間だ!」

    「シンク以上に優秀な子はなかなかいないし、万々歳なの!」

    ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! 二人の万歳三唱が研究室に響いた。こうして僕は二人の研究に協力することになった。まだその本当の内容は全く知らずに。

    -第3話 END-

第4話『目指せ世界一!』

  • そして今――。
    THE・PRESENT・DAY。
    いろいろと振り返って来たが、実に長い10日間だった気がする……。10日ほどの出来事なのに、既に僕にとって黒歴史だ。それなのに、僕はまだ二人の研究に協力している。

  • ベンベンベンベンベンベンベンベン……。ベンベンベンベンベンベンベンベン……。
    なぜだろう。この数日の間、何度も自問自答を繰り返しているが、なぜ僕はずっとベースの音を聴いているのだろう。聴いているどころか、弾いている。

  • 「本当に、なぜなんだ……」

    思わず頭を抱えてしまう。

  • 「くおらっ! サボってんじゃねえぞ、シンク!」

    「今日もこつこつ練習練習!」

    ムサシ先生とプロフェッサー・ルーニが僕に喝を入れてくる。なぜか二人とも手にメガホンを持ち、ジャージを着て、運動部のような格好をしている。首からはホイッスルも下げている始末だ。

  • 僕はベースを構えて弦に指を乗せた。そして……ベンベンベンベ――。

    「先生!! 質問があります!!」

    「どうしたシンク!」

    「これはいったい、何の活動なのでしょうか!?」

  • すかさずムサシ先生のメガホンが飛んできた。

    「くおらシンク! その質問、何回目だ!」

    「57回目です!」

    「つまり俺の答えも57回目ってことになるな!?」

    「はい! その通りです!」

  • 「なんでそんなに聞いても分かってくれねえんだよ」

    「そうなのー。そんなに飲み込みが悪い人じゃないでしょ?」

  • 「お言葉ですが、僕は研究に協力するということでお二人に付いてきました」

    「しかし、やっていることと言えば、毎日毎日ベースの練習です」

    「なんで音楽なんですか? 研究はどこに行ったのでしょうか」

    二人はしばし無言で僕を見つめた後、がっくりと肩を落として同時に思いきり大きなため息をついた。

  • 「はあーーーーーーあ…………」

    そしていつになく真剣な目でプロフェッサー・ルーニが見つめてくる。

  • 「あのね、シンク」

    「は……はい」

    「あなたがどんなに不思議に思っても、音楽は理力学だし」

    「あなたが苦手だって言ってた占いを含む超常現象だって理力学で証明できる日が来てるのよ?」

  • 「え?」

    マジで!? ……と、いけない。つい驚きすぎて言葉遣いが……。

    「ほ、本当ですか?」

  • 「ええ。やっと理論が形になったばかりだけど、人の心を読むことも随分先の未来を知ることも理力学で証明できる日が来ているの」

    「そしてあたしたちは、もうひとつ先の理論を確立させるために研究をしている」

    「けれど、それにはあなたが必要なの。だから、もっともっとベースを練習してほしいの!」

    えっと……最後の一文だけ前半に繋がってない気が……。

  • 「本当に超常現象も理力学で証明できるんですか?」

    「ええ。『超越理論』でね!」

    「!!」

    そうか……。あの理論なら確かに可能だ。今すぐこの場で理論を説明することは、……とりあえず今回は控えておくが。わからないわけじゃない。念のため。

  • 「わかったか? シンク」

    「はい。……恐らく」

    「返事が生半可だぞ!?」

    「大丈夫です!!」

  • 「よっし! じゃあシンク。ベースでもトップを目指して、ひたすら練習だ!」

    「そうなの! なんなら世界一のベーシストになってくれてもオッケーなの!」

    「トップに立つのが好きだろ、シンク」

    「トップに立つことが生きがいでしょ、シンク!」

  • 「は、はい……トップは嫌いじゃないです」

  • 「じゃあ目指そうぜ!!」

    「トップオブザワールド! 世界一のベーシストに、シンクはなる!! ……なの!」

    二人のメガホンとホイッスルが唸る。僕は二人の音頭と共にベースを手に取った。

  • なぜだろう、不思議と疑問が湧かなくなっている。
    ベンベンベンベンベンベンベンベン……。思えば、これまでの人生で僕は音楽と縁がなかった。けど、今は二人のおかげでギターとベースの区別がつくようになった。

  • 見た感じとんがっている部分があったり、ごつごつしていたりする方がベースだ。
    ……いや、弦の本数で見分けるんだったかな? まあいい。今、僕の手の中にあるものがベースだ。

  • ベンベンベンベンベンベンベンベン……。ベンベンベンベンベンベンベンベン……。
    僕はひたすら弦を弾く。これが世界を救う一助となるのだ。

  • 「よし。こうなったら……」

    ヴィィィィィン! ヴゥェンヴゥェェン!

  • 「おっ。いいぞシンク!」

    「その意気なの、シンク!」

    僕はより一層気合いを入れて弦を弾いた。覚悟は決まったのだ。ベンベンは卒業してもいいだろう。

  • 「いけいけシンク!」

    「ゴーゴーシンク!」

    僕は弾く。今日もベースを。
    僕の名はシンク。目指すは――。
    『世界一に近い男だ!』

    -第4話 END-


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