更新日:2018/07/09

公開日:2018/07/02

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キャラクターストーリー

カズシ編

第1話『契機』

  • ギュイーン! ダダダダダダ…シャーン! 派手なギターとドラムの音が鳴り響く。
    客が歓声をあげると、ステージ上の青年がマイクスタンドに向かって叫んだ。

    「お前らに会えて嬉しいぜ! まだまだお前らイケるよなー!! ガンガン盛り上げていこうぜ!!!」

    「わーーーーーっ!」

    再び大歓声に包まれる会場。

  • ――シブヤロックフェス。毎年夏に開催される、シブヤシティ随一の音楽フェスだ。
    全国各地から熱心な音楽ファンが集まり、昼夜を問わず様々な音楽に浸っては大いに熱狂する。
    参加するバンドはベテランから新人まで幅広く選ばれており、会場に設置されている複数のステージにジャンルや年代などで振り分けられている。
    その中の若手主体のステージに、高校生たちが組んでいる新進気鋭のバンドが出演をしていた。

  • バンドの名前はイデア。メンバーは、ボーカルのセリ、ドラムのジュン、ベースのマサト、そして、ギターのカズシの四人。
    中学生の時に出会って活動を始めた四人だったが、ボーカルのセリの人気もあって、瞬く間に若者を中心に一目置かれるバンドとなっていた。

  • 「カズシ。次、新曲だ」

    「オッケー、セリ。ハデにいこうぜ!」

    セリに声をかけられ、カズシがうなずく。
    カズシはピックを弦にあてると、最新曲のイントロを弾き始めた。

  • 「きたきた! 新曲!」

    「イントロかっこいい~!」

    「やっぱりイデアって最高!」

    女子高生の二人組がイデアに熱烈な視線を送っている。

  • 「ねえあれ見た? ミスDの記事! イデアのことイチオシって紹介してたよ」

    「見た見た! ミスDも注目するなんてすごいよね!」

    「ま、見つけたのは、私たちの方が先だけどね」

    ミスDとはミストD.のことで、音楽雑誌でバンドの評論を書いている有名な評論家のことである。

  • 「あ~。やっぱりセリが一番!」

    「ううん、一番はカズシだよ!」

    「セリだよ!」

    「カズシだよ!」

    それぞれの推しメンのこととなると誰にも負けまいとなる二人。

  • 二人とも中学生の時にカズシと同級生で、カズシたちがバンドを始めたときから、イデアを応援していた。
    普段のカズシは一匹狼な感じでクラスメートと群れる様子もなく、どことなく話しかけづらい雰囲気があった。
    好きなものが何なのか、何に興味があるのか、二人とも本音のカズシを見たことがなかった。

  • しかし、文化祭の時、ステージに立ったカズシは歯を食いしばり、汗を流し、時には笑顔で、熱く激しくギターを鳴らしていた。
    カズシのことを、どこか儚く浮世離れしているとさえ感じていた二人だったが、そんなカズシの姿を見て、本当のカズシはこうなのだと知ったのだった。

  • 曲がサビにさしかかり、一層盛り上がってゆく。
    セリの歌声にあわせて弦をかき鳴らしていくカズシ。

    「全力で響かせるんだ! この瞬間の輝きを!」

    最高の笑顔でメンバーと目をあわせるカズシ。メンバーもカズシを見返してうなずいた。
    ――しかし、その時だった。カズシの視界に紫色のノイズがかかった。

  • 「なんだ――?」

    何が起きたのか、カズシにはすぐに分からなかった。
    会場が見る見るうちにノイズに飲み込まれ、混乱した観客の悲鳴が起きる。

  • 「なんだよこれ……。セリ…! みんな!」

    カズシが叫ぶ。しかし返事はない。ノイズばかりがカズシの周りに色濃くなっていく。
    のちに世に広く知れ渡ることになる『魔影蝕』が起きたのだった。

    -第1話 END-

第2話『魔影蝕の中で』

  • ライブ会場の区画が魔影蝕に飲み込まれていた。
    カズシの周辺に大量のノイズが溢れている。

    「これは……?」

    何が起きているのか分からない中、ステージの設備が破壊されていく音が聞こえてくる。
    ふと気づくと先ほどまで傍にいたはずのバンドメンバーの姿が見えない。

  • 「セリ……! みんな……!! 返事をしてくれ!!」

    視界がはっきりとしない。風景全体が歪んでいてノイズだらけだ。
    観客たちの様子も見えず、悲鳴をあげながら逃げ回っているのが音で聞こえてくるだけだった。

  • 悲壮な声が響き渡る中、カズシは仲間を探しに駆けていく。

    「いったい何が起きているんだ……」

    時折落下してくる照明やスピーカーを避けながらカズシは会場を走り回った。

  • 「カズシ!」

    周りの状況が見えない中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

    「セリ!?」

    声がした方を振り返ると、近くにセリが怪我を負って倒れていた。

  • 「大丈夫か、セリ!」

    「ああ。足をやられたが……」

    「すぐ病院に……!」

    と言ったものの、この状況から逃れる方法が分からない。
    相変わらず視界はノイズがかった砂嵐だ。セリの姿もはっきりと見えない。

  • 「セリ……これって何なんだ?」

    「分からない……」

    「他のメンバーは?」

    セリが力なく首を振る。

    「それも……。気づいたら誰もいなかった……」

    「くそっ……。とにかくここを離れよう」

    カズシはセリに肩を貸し、溢れる悲鳴の中を進んで行った。

  • 途中、何か金属音のようなものが暴れている音が聞こえてきた。不気味な笑い声もする。
    ふとカズシは音の方に目がいった。
    すると、見たことのない『何か』と目があった。

    「えっ」

    カズシの目に『何か』がにやりと笑ったのが見えた。

  • その瞬間、セリが前のめりになって倒れてくる。

    「セリ……!?」

    瞬時の出来事にカズシの意識はついていけなかった。
    フラッシュライトのように見えた残像は、先ほど目があった何かがこちらに来たかと思うと、セリに向かって襲いかかってきた。

    「セリ!!」

  • 「無事……か……カズシ……」

    セリが安心したようにフッと笑う。カズシは咄嗟にセリに手を伸ばした。
    しかし、カズシの手が届くより前にセリが目の前から消え去った。

    「!!」

    「消えた――!?」

    次にカズシに見えてきたのは何者かが向かってくる光景だった。

  • 気が付くと、荒れ果てた会場にカズシは一人倒れていた。
    残っているのは、大量の瓦礫だけだ。ぼーっとした意識でカズシは起き上がった。

    「ここは……」

    身体に痛みが走るのを我慢して立ちあがる。
    ノイズはなくなっており、視界がはっきりしている。

  • 溢れる瓦礫の中、カズシは叫んだ。

    「セリ……! みんな!」

    誰の姿もない。誰からの返事もない。どんなに探してもメンバーはおろか、観客も見つからなかった。

    「なんだよこれ……。何が起きたって言うんだよ!!」

    カズシはたった一人、その場に立ち尽くした。

    -第2話 END-

第3話『転機』

  • あれから一年近くが経とうとしていた。
    仲間を失ったカズシは、途方にくれた日々を送っていた。
    学校にも行かず、何をするわけでもなく、ただただ過ぎていく時間に身をゆだね、ギターを弾くことはおろか、音楽に関わるものには一切触れなくなっていた。

  • そんなある日――。
    カズシはふと、部屋の隅に置いていたギターを手に取った。
    そのまま何かに導かれるように外へと向かって歩いて行く。
    そうして、ふと気が付くと、イデアのメンバーがいつも通っていた練習スタジオに着いていた。

  • 誰もいないスタジオでギターを弾きはじめるカズシ。
    音が静かに壁に吸い込まれていく。
    それはどこまでも冷たく、孤独な音色だった。

    しばらくするとカズシは手を止めた。

  • 「やっぱり、あいつらと一緒じゃなきゃダメだ……」

    メンバーのことを思い出すカズシ。涙は出てこない。

    「セリ……。みんな……。すまない。俺に力がなかったせいで……、助けることができなくて……」

    ピックを強く握りしめるカズシ。涙は枯れても、悲しみや悔しさはなくなっていない。今でもカズシの心にはあの日のことが心の傷となって強く刻み込まれている。

  • 「こいつも……、あいつらがいないとこで弾いても意味がない……」

    ぐっと息を一つ吸うと、カズシは立ちあがった。そして決意の目でギターを見る。

    「じゃあな……」

    そう言ってカズシはギターを壁に打ち付けようとネックを掴んで振り上げた。
    しかし――。

    「待ってなの!!」

  • 「……っ!?」

    突然スタジオの扉が開き、カズシが驚いて振り返ると、きれいな女性が立っていた。

    「そのギター、まだ手放す時ではありません」

  • 「そうなの! いつか絶対後悔する!」

    えっ? もう一人いる……? どこから……?

    「失礼なの! ここにいるの!」

    「……!?」

  • カズシが女性の後ろを見ると、小さな女の子も立っていた。
    きれいな銀髪を二つに結っている。

    「子ども……?」

    不思議そうに女の子を見るカズシ。

  • 「子どもじゃないの!」

    そう言って女の子はむうっと口をとがらせながら女性より前に歩み出て、カズシと対峙した。

    「なんなんだ? 俺に何か用なのか……?」

    ギターを下ろして、怪訝に二人を見るカズシ。

  • 女の子は両腕を腰にあてると、カズシの目を真っすぐ見て笑いかけた。

    「その通り!」

    「あたしの名前はルーニ。あなたに仲間になってもらいたいの!」

    「は……? 仲間……?」

    -第3話 END-

第4話『それぞれの思い』

  • 「仲間……?」

    カズシは突然現れた二人を前に目をぱちくりと瞬かせていた。

    「あらためまして。あたしの名前はルーニ」

    「海守学院の研究所でエクステMプロジェクトのリーダーを務めてます。こっちはメルティ。こう見えてもアンドロイドなの」

  • 「え……?」

    カズシはルーニの隣で控えている女性を見た。
    メルティという名前のアンドロイドとのことだが、どう見てもきれいな生身の女性にしか見えない。

    「アンドロイド? 嘘だろ……?」

    「嘘じゃないの!」

  • 信じられない、という顔でまじまじとメルティを見るカズシ。
    そんなカズシにやれやれと一つため息をつくメルティ。

    「私のことはよいのです。ルーニはあなたの力を借りにはるばるスカウトに来ました」

    「どうぞお力添えを」

  • 「俺の力?」

    困惑しているカズシにルーニがうなずく。

    「そう。あたしが研究しているエクステMに、あなたの演奏力を貸してほしいの」

    「エクステ? 演奏『力』??」

  • 「イデアのギタリストってあなたでしょ?」

    「でも、一年前、シブヤの音楽フェスで起きた魔影蝕のときに、他のメンバーは……」

    「ああ。助かったのは俺だけだ……」

  • 「どうしてあなただけ助かったのか、その理由をあたしは知ってるの」

    「は……? なんだよ、理由って」

    「それは、あなたのその演奏力!」

  • カズシが眉を寄せて、困惑の顔をルーニに向ける。

    「よく分からないんだが……」

    「簡単に説明すると、ギターを弾くことによって、あなたの身体の中にある理力が増幅され、音に力が備わるの」

    「そして、音があなたの周りを囲むことによって魔影蝕からあなたを守った、という推測なの」

  • 「は? え? は??」

    カズシはさらに怪訝な顔をした。

    「そして、その力を貸してほしいの。あなたの力があれば、あたしの理論に最後のピースがはまる」

    「だから一緒に来てほしいの!」

  • 「えっと……つまり、お前たちの研究のためにギターを弾けっていうことか?」

    「そうなの! イデアの時とはジャンルが違うかもしれないけど、他にもメンバーはいるから、きっと楽しいはず!」

    ルーニが目を輝かせてカズシを見た。

  • しかし、カズシは考える間もなく一言を放った。

    「断る」

    「どうして!?」

    「俺のギターはイデアのためのギターだ。誰とでもいいってわけじゃない」

    「……悪いが帰ってくれ」

    そう言うとカズシは踵を返した。

  • 「ま、待って! まだ説明は終わってない!」

    「どんだけ説明しても無駄だ」

    「……子どもには分からないさ、大事なものを失った気持ちなんて……」

    「あいつら以上に一緒にバンドをしたいやつなんて、いないんだ……!」

    「……」

    「じゃあな」

  • すたすたと歩いて行くカズシ。その後ろでルーニが大きく息を吸う音が聞こえてきた。そしてルーニが悲痛な声をあげる。

    「あなただけじゃない……っ!」

    「……?」

    「大事なものを失ったのはあなただけじゃない……!!」

    「……っ!」

    驚いて振り返るカズシ。

  • ルーニが俯きながら微かに震えている。

    「自分だけが悲しい思いをしてるだなんて、大間違い」

    「みんな、みんな、悲しい思いをしてるの! この国だけじゃない。世界中で……!」

    「でも、そんな思いをなくしたい。そんな思いはもうしたくない」

    「そのためなら何だってやる。あたしはそう決めたの!」

  • 「お前……」

    「あなたはどうなの?」

    「いつまでも過去の中に生きて、悲しみ続けて、未来を見ないで、そんな情けない日々を繰り返すの!?」

    「できることがあるのに、何もしないで……!」

    「……っ」

    ハッとさせられてカズシが息を呑む。

  • ルーニの目を見ると、微かに潤んだ瞳がカズシを真剣に見つめていた。きゅっ、とカズシが悔しそうに拳を握る。

    「お前も……誰かを失ったのか?」

    「……パパとママを……」

  • ハッと目を見開くカズシ。目の前の女の子は気丈に振る舞ってはいるが、どう見てもまだ幼い。それなのに両親を失っているとは……。

    「そうだったのか……すまない。何も知らなくて……」

    カズシは悲痛な表情を浮かべ呟いた。

  • そして微かに首を振る。

    「いや、違うな。何も知らないんじゃない」

    「何も見ようとしてこなかったんだ……。お前の言う通りだ……」

    「そのことを悪いと言ってるわけじゃないの」

    「ただ、できることがあるなら、やってほしいって思ってるだけなの……」

  • 「だとして、俺がギターを弾くことが何に繋がるって言うんだ……」

    カズシは不思議そうにギターを見つめた。

  • 「それは……失った人にもう一度会うため演奏してほしいってことなの」

    えっ、と驚いてカズシがルーニを見る。

    「まさか……あいつらに、もう一度会えるっていうのか?」

    「うん」

  • 「そんなわけないだろ……! だってあいつら、みんな消えたんだぞ!?」

    「でも会えるの!」

    「まだ理論が完成しただけだけど、あなたの力を貸してもらえれば、実現できるかもしれないの!」

    「……嘘だろ? そんなことができるわけ……」

  • 「できる。あなたには『共振音感』がある」

    「その力があたしの開発したエクステMとあわされば、エクステの持つ力はもっと増幅されて、魔影蝕に対抗できるの」

    「だから、未来の可能性に一緒に懸けてほしいの!」

  • 「共振音感……」

    カズシはルーニに言われると同時にセリに言われたことも思い出した。
    昔、セリとバンドを組んだばかりの頃、セリからも『共振音感』について言われたことがあったからだ。
    カズシの共振音感のおかげでイデアの音が輝いていると――。

  • 「……ルーニって言ったな」

    ルーニの瞳を見つめるカズシ。

    「俺のギターが力になるっていうのは、本当に、本当なんだな……?」

    「あなたがあたしを信じてくれるなら……!」

    しばしの間無言で見つめあう二人。

  • ルーニの真剣な目にカズシは一つうなずいた。

    「分かったよ。まだよく分かんねえけど、お前のこと、信じる」

    「あいつらを取り戻せるなら、いくらでも弾いてやる」

    そう力強く言ったカズシにルーニが笑顔になる。

  • 「ありがとうカズシ! これからよろしくね!」

    こうしてカズシは海守学院へと転入した。
    もう一度、仲間に会うために。

    -第4話 END-


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